星屑書簡 Letter Media
2023
都市部への人口流出とともに過疎化がすすむ地方では、観光的なものへの期待が高まり、土地の素材を観光資源のフィルターで捉え直す流れが少なからずある。外から人を呼び込み、消費を拡大するための「特効薬」として観光が行使されるとき、本来内向きの地元・地場における生産の土壌をはぐくむための「漢方薬」的な観光の側面は閉ざされてしまう。これには注意したい。
全市町村から天の川を展望することができるほど美しい星空に覆われる鳥取県。「星取県」の別名でその星空の美しさを伝える同県のPR企画にあたり、星空は「観光資源」である以前に、地元民にとっての「生活情景」であることに立ち返りながら、ローカルに根づくものたちの息吹を擬集するような「星空」をWEBクラウド上空に試作した。
全市町村から天の川を展望することができるほど美しい星空に覆われる鳥取県。「星取県」の別名でその星空の美しさを伝える同県のPR企画にあたり、星空は「観光資源」である以前に、地元民にとっての「生活情景」であることに立ち返りながら、ローカルに根づくものたちの息吹を擬集するような「星空」をWEBクラウド上空に試作した。
01
星の方言と心象
科学の授業で習う星座や星の名前のほとんどはラテン語やギリシア語の響きをもち、星や星座に日本特有の和名(方言)があったことはほとんど忘れられている。星は、農民が播種や収穫時期をはかる「目安星」になれば、商売人が繁盛を占う「商い星」にもなり、夏の朝方に北東から出る大きな星を「カンビンボシ」と名付けた漁夫は仕事を切り上げて船上で酒を一杯やる楽しみを先どりしていた。暦がつくられる以前の生活史には、星に足元の暮らしのリズムを重ね、時には景気を投影し遊んでいたひとの姿が「星名」で残っている。
02
星空の情緒
第二次世界大戦下に妻子が疎開した鳥取県の村を訪れた小説家・井上靖は、鳥取の星空を見上げて「天体の植民地」と詠んだ。星空に当時の社会と心理を読んだ。時代は変われど、星になにかを見立ててしまう心のはたらき自体は止むものではなく、変わったものは星空を見上げることができる場所や、星空に気づける時間が減ったことの方である。そんな時代を背景に、鳥取県はいまどこにどんなかたちで星空をひらくことができるのか。星空そのものの美しさではなく、星がひとになにかを催すはたらきを「星空の情緒」として編集した。
03
天文台を逆さまにした心の観測所
地上から星をながめる天体観測ではなく、星の方からそれをながめる人の心を覗き込む。天文台を逆さまにしたようなアイデアは、星取県のコンセプトである「CATCH the STAR」の“CATCH”の二面性に立脚することから生まれた。夜空に浮かぶ星を”つかまえる”ことを空間的に誘発する従来のアプローチに対し、本企画では星空を”うけとめる”ひとの内側に流れるものを時間的に共有するリズムを重視した。これはA面(星空の美しさ)を引き立てるためのB面の編集作業であり、星空に見立てたクラウド上のWEB空間で、星屑のような言葉で情緒を交わす場所 <星屑書簡> として具現化した。
04
星空を棚引かせる往復書簡
「近頃、星になにを読んでおられますか。」を合言葉に、鳥取にゆかりのある五名の差出人からお預かりした手紙をWEB上に掲載。読者は手紙にお返事を投函することができ、差出人から返信先として選ばれた手紙には、二通目のお手紙(直筆)と贈り物が届く往復書簡のシステムを採用した。食・ファッション・宇宙・編集・本屋それぞれの小さな暮らしのリズムが刻まれた手紙には、山陰の名の知れないスポットや生々しいエピソードが登場し、その上空にはただただ星が瞬いていた。星を背景あるいは拝啓にした生活と物語の記憶メディアである。
Members
Hoshitoriken
- Main Manager
- Yoshihiro Enokida
- Manager
- Mariko Nakata
- Manager
- Chie Ishiko
Creative Design
- Producer
- Keisuke Saeki
- Designer
- Sakura Ito
- Planner / Editor
- Keisuke Saeki
- Web Corder
- Hiragi Ayako
- Contributor 1
- Itaru Watanabe / Talmary
- Contributor 2
- Yoshikazu Yamagata / writtenafterwards
- Contributor 3
- Rena Okajima / ALE Inc.
- Contributor 4
- Hiromitsu Yoshikawa
- Contributor 5
- Tetsuya Mori / 汽水空港