謡曲「おとずれの樹」

東本願寺の渉成園で催された生物多様性をテーマにした実験的な茶席「Multispecies’ Tea Ceremony」にて、同庭園の主木[シンボルツリー]を主題に制作した謡曲を発表。庭仕事を追体験するフィールドワークで遭遇した、庭園の中でゆらめくものたちの声(おもい)を古典芸能「能楽」の技法を応用し、台本形式の文芸作品に仕立てた。

自然の流れによって生成と消滅を繰り返す生命のはたらきと、庭園美学によって庭から生命を引き剥がす庭師のはたらき。その張り合う関係の中に発見した「時間の姿」あるいは「動く庭」の様相を[うた]として記述することで、庭から間引かれたものたちや、彼らに日々手を合わせる庭師のこころに接近するための界面(フィルター)を庭園に挿し入れる試みである。

なお、当作品は今後も思索と試作を繰り返し、様々なかたちで発表していく予定です。
Archive

Multispecies Tea Ceremony

2023.4.15 - 4.22
東本願寺の渉成園の茶室「代笠席」にて作品を朗読発表.
All photo by Daisuke Murakami.
Contents

Prologue | プロローグ

春を待つ冬の渉成園で庭仕事を行った私の身体は変わってしまった。春を迎えた庭を再訪した私は、口紅のように甘色に咲く梅の花に誘惑されながら、そこには姿がない雑草の面影に誘引されていたのだ。その雑草は、私の手によって庭から取り除かれたものたちの残像で、私たちが梅の華やぐ春を迎えるにあたってノイズとして追い出したものたちの陰影だった。

庭に新しい季節が訪れるとき、そこから音ズレるように消えてゆくものたちの存在に私はハッとした。それからというもの、時間軸が歪むように私の眼前に拡がる庭の景色は揺らいだ。そして、庭で静かにうつろいゆくものたちが私の身体を通過して声(おもい)を語り始めた。

Concept | 作品概要

< 物 語 >
旅人が春の渉成園を訪れたとき、枯れた木のすぐそばで庭の手入れを行う庭師がいた。枯死した木に手入れを行う姿を不思議に思った旅人が声をかけると、その庭師は枯木(ビャクシン)の精霊だった。

< 主 木 >
ヒノキ科ビャクシン属の常緑高木。世界恐慌(1929)と同時代に枯死したものの、今も渉成園のシンボルツリーとしてその存在感を漂わす。枯木にはハゼノキが宿り、次の生命が顔を出す。死生観や存在論を揺さぶる本曲の主題。

< 謡 曲 >
古典芸能「能楽」の詞章で演劇における脚本を指す。本作では、この世に念を残すものが幽霊や精霊のすがたで現世に降り立ち、思いを語る「能楽」の技法を応用した。

Melody | おとずれ(環境知覚言語)

まだそこに完全には到来していないものが、もうすぐそこにある状態を指す「おとずれ」。この言葉は、時間と空間の奥行きを捉える日本独特の絶妙な感覚である。春の到来を待つ冬の庭に手を入れた私は、春の ”訪れ” と同時に、その場を譲るように消滅するものたちの ”音ズレ” を聴いた。この二つの感覚を「おとずれ」の両義性として ”生成” と ”消滅” に変換し、独自のリズムで庭への干渉を誘う。
Schedule

Place

東本願寺渉成園(Kyoto)

京都府京都市下京区下珠数屋町通間之町東入東玉水町

DAY1 | 4.15(Sat)
– 13:00-14:00 珈琲茶会Ⅰ
– 14:30-15:30 珈琲茶会Ⅱ

DAY2 | 4.22(Sat) 
– 11:30-12:30 虫秘茶会Ⅰ
– 13:00-14:00 虫秘茶会Ⅱ
– 15:00-16:00 菌茶会Ⅰ
– 16:30-17:30 菌茶会Ⅱ
※各回で朗読を行います

Guest
Ticket

All photo by Daisuke Murakami.

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